切なさに似て…
シャワー口から熱いお湯が降り注ぐ。

たちまち浴室全体に広がる白い靄の中でべとついた汗と共に、重ねた嘘と隠された真実がバシャバシャと豪快に排水口へと吸い込まれて行く。

鏡に水をかけ自分の姿を映し出す。

首筋に付けられた無数の紅く染まった印は、シャワーをかける度にじんじんと熱を帯びる。



私達はきっと、端から見れば一見普通のカップル。

私は明日の朝まで一弥の“彼女”を演じないといけない。

スカルプの呪縛から解き放たれた瞬間、私は現実に引き戻される。

舌が蕩け落ちそうになるくらいのビーフシチューを、頬を緩ませ美味しそうに食べる私に一弥は。


「美味しい?」

そう聞くのはいつものこと。


「美味しいよ。一弥のビーフシチューが一番好き」

そう答える私もいつものこと。


お腹を満たした私達がすることは、テレビを見ることでも、語り合うことでもない。


皺を寄せ合わせたシーツの上で、ただひたすら愛を求める。

肌と肌が触れ合う時、交わる吐息すら飲み込んでいく。


いつまでこんなことを繰り返すんだろう。

頭の片隅で思いながら、私はこの香りからもう2度と離れられない。


全てを夜の闇に紛らせてなかったことに出来たら、どんなに楽なんだろう…。

何度も体に受ける刺激を感じながら、逃げ出そうとする心は正直なのかも知れない。
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