切なさに似て…
「お腹空いたーっ。昨日食べ損ねた夜ご飯を朝に食べて以来だもん」

乱れた髪を後ろへと流し、手で束ねる。


「何か作って欲しいんでしょ?」

意味ありげな台詞を吐いた一弥の唇に、キスを落とす。


「ビーフシチュー作って」

と、囁きかけた私の背中に回された力強い腕に引き込まれ。


鼻腔を擽っていた香水の香りは汗と一緒に流れてしまったのか、微かに残るスカルプの匂いに顔を埋める。


吸い付かれた首筋に強い痛みが、何度か走ったあとに。

「俺のものって印つけといた」

私の体ごと起き上がる一弥は、素っ裸のままベッドを降りてリビングへと歩き出した。

「ご飯、作っとくからシャワーでも浴びてくれば?」

「うん」

彼方から届く声に適当に返事をして、枕に顔を付ける。


汗で湿り気を帯びた枕カバーとシーツから、湿っぽい匂いとスカルプの甘い香り。


ギシギシと音が鳴りそうな体を起こし、重たい足取りでバスルームへと向かう。

途中のキッチンから漂わせる、野菜とお肉を炒めた香ばしい匂いに鼻を啜る。

それが、料理が得意な一弥のお手製ビーフシチューだとわかるまで、そう時間はかからなかった。

一弥が作ってくれるから、この部屋で私が得意料理を披露することは今まで一度だってなかった。


可笑しいよね、付き合ってるのに…。
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