切なさに似て…
開けたくない目を無理矢理こじ開けると、その呪縛が解け朝を迎える。


すでに作業着を着ている一弥を瞳に映す。

私たちは機械課の結城さんと、経理事務の立花さんという目覚ましい変貌を遂げた。


スカルプの香りは微量に匂うも、そこに夜を明かした2人はどこにもいなかった。


車に乗り込んだ彼は一足先に職場へと向かう。

立ちはだかるマンションの下においてきぼりをくらった私は、トボトボと地下鉄の駅を目指す。


ポッカリと心の奥に穴が空いたような、非常に虚しさが残る月曜日の朝。

それでも、ここには土曜日の夜しか訪ねない。


ホームから押し込まれるように乗り込んだ異様に膨らんだ地下鉄。

魔法が解けた朝、押し寄せられふと目に飛び入った窓硝子に映るのは、気怠い体に刻まれた情事の痕。


…しばらく消えないだろうなぁ。

首筋をコートの襟で隠しつつ、まるで他人事みたいに心の中で独り言を呟いた。
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