切なさに似て…
「これで文句ねーな?」

それくらいのことで得意顔をする信浩に、私のかける言葉を探してはみたが、やっぱり見つからなかった。

「はいはい」

適当に聞き流し白い目を向け。わかったから、食器出して。と、付け足した。


「もうちょっと何かないのかよ、褒めるまでいかんくても。何かあるだろ」

食器を並べながら、先程の私の態度が気に入らなかったのかぼそぼそと口を動かす。


「あー、凄いねぇー。偉いですねぇー」

小さな子供を褒めるみたいな口調でそう言うと、信浩は不機嫌そうに表情を曇らせた。


「バカにしてるだろ?」

「さっきのお返しだよ」

形勢逆転した私の勝ち誇った顔に、眉毛を歪ませる。


「運動不足なのはほんとのことなのに、根に持ちやがって」

透明なグラスにオレンジジュースとカシスシロップを注ぎ、私の座るであろう定位置にコトッと置いた。


「ほんとのことだからこそ、指摘されるとムッとくるんだって」

私は眉を寄せたまま、鍋掴みの代わりに手拭きで土鍋を持ち上げ、セットされたカセットコンロに置く。


「屁理屈言いやがって」

信浩は口を尖らせたまま、カチッとカセットコンロの点火スイッチを捻る。チチチッ、ボワゥッと火がついた。


徐々にぐつぐつと音を発する土鍋に、向かい合うように取り囲む。


空腹状態の胃袋に、テーブルに置かれたビールとカシスオレンジ、箸に器。いつでも食す準備は出来ている。
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