切なさに似て…
さっぱりとした体を拭き、グレーのスウェットに袖を通す。

このラフな格好をすると一番、気持ちが落ち着く。所々飛び出てる毛玉だって愛嬌がある。


丁寧に濡れた髪をタオルで押さえる。寝ている信浩がドライヤーの音で起きたらと、ストーブの前で膝を抱え座り込む。

…こんなんで乾くのかな。

髪を掻き上げたり揺らしたりして、頭をストーブに近づける。

チラチラと私の瞳に入る銀色に光る鍵。


擦れ傷が無数についたこの部屋の鍵。

持ってろ。と、渡して寄越したのはこれで2度目。

以前も、私は断固として受け取らなかった。


いや、受け取れなかった。


信浩の服が押し込められたクローゼットの下の段。その時に綺麗に片付けられ荷物を詰め込まれることなく、今も空洞のままだった。


持ってろって簡単に言うけど、私にしてみればそれは難しいことなんだよ。
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