勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
キャンセルなんて言葉、この時代に存在しない!!
そう気付いたのは彼の不機嫌そうな表情が私に近付いてからだった。
立ち上がった私の手を掴んだまま彼も私の横に並んで立っている。
「キャンセルって言うの中止のことです。ごめんなさいキャンセルなんてわからないですよね?」
なるべくこの時代に沿った話し方を心がけていたのに慌てると言葉を選べなくなるんだ。
「それは紫衣の時代の言葉なのか?」
「はい。」
「キスのように?」
「そう..です。」
彼はキスという言葉をシッカリ覚えているんだ。
彼に手を引かれ導かれるのは床の上に腰を下ろした彼の膝の上。
私の髪をかきあげて耳にかけると彼は唇を耳に寄せて囁いた。
「紫衣、キスしたい。」
言葉と共に降ってくるのは彼の唇。
雨のように降り注ぐたくさんのキス。
「紫衣が大丈夫ならば左近の謀に乗ってやろうと思っている。」
ふいに落とされた言葉に思考がついていかなかった。
キョトンと首を傾げる私に彼はフッと小さく笑って言った。
「眠らせてやりたかったのにすまない。」
もしかして.....
いいえもしかしなくても彼は私の体調を心配してくれていたの?
「あなたの体調が悪いのだと思っていました。」
恥ずかしさを堪えながら話すと三成は小さく笑って私を抱きしめた。
「そうじゃないかと思った。」
そう言った三成の胸に頬を寄せて私は俯き顔を赤く染めるしかなかった。