勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
額から滲み出た汗が頬を滑り落ちる。
沸騰しそうな頭に反して背中はゾクゾクと寒気を感じていた。
瞳に映るのは眉間の皺を深くした殿の顔。
「いったい何が話したいのだ。」
緊張の余りゴクリと喉を鳴らす俺に刺すような視線を向け至極冷静な言葉が殿の薄く整った唇を割って飛び出してきた。
「はっ。……」
何が言いたいのか…。
俺にも解らないんだ。
ただ、あの不思議な少女と殿を引き合わせたいだけ…。
いや、引き合わせねばならないと何故か気持ちが逸ったのだ。
ひれ伏し言葉を発することの出来ない俺の頭上から又大きな殿のため息が聞こえた。
そして殿の立ち上がる衣擦れの音が耳に響いた。
怒ってらっしゃる。
そう思い、額を床に擦り付けながら体がビクリと跳ね上がったのが自分でも解った。
襖を開ける音と共に殿の足音が額に響いた。
「左近、言いたいことは解らないがお前がその娘と俺を引き合わせたいのは解った。明日ここに連れてこい。」
襖がパタリと閉まる音と同時に落ちてきた言葉。
「はっ。」
襖の向こうから殿の遠のく足音に混ざってクスクスと笑う声が聞こえた。
怒ってらっしゃる訳ではない。
それが解って俺は安堵の息を吐き出した。
おかしい。
おかしいぞ左近。
お前とあろう者が何を焦っておるのだ?
そう問われているのだろう。
それと共に左近でも焦ることがあるのだな。
そう思ってらっしゃるのかもしれない。
本当に…
俺らしくない。
ククッ…ククク…
冷静沈着が聞いて呆れる。
小娘1人に心乱されるなぞ、この島左近初めてのこと。
「可笑しいぞ左近。」
殿の声が聞こえた気がした。