勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
「その娘、紫衣と言ったな。」
小さな粗末な茶碗に注がれた白湯を飲みながら左近さんは口を開いた。
「はい。今年で5歳になります。私の一人娘です。」
男の人の名前は長吉と言った。
私とは違う塊に飲み込まれた紫衣ちゃんのお父さん。
とても暮らし振りがいいとはいえない家。
長吉さんも痩せて頬はこけていた。
「その紫衣だが昨日村はずれの竹やぶの中で倒れているのを俺が見つけた。」
「それはありがとうございます。突然神隠しにあったかのように紫衣は消えたんです。」
「というと?」
「はい。いつものように私は畑に紫衣を連れて行き仕事に励んでいました。その時強い風が吹いたと思ったら紫衣は忽然と姿を消したんです。まるで神隠しにあったかのように...。」
だけど私に逢ったとき紫衣ちゃんは自分の意思で黒い塊に入ったんだよ?
私も彼女に導かれたことに間違いはない。
どういうこと?
彼女は神隠しにあったの?
突然姿を消すなんて信じられない話だけれど、私がここに存在する不思議を考えると嘘だとは思えない。
だけどどうして?
なにかとんでもない力が動いているかのようで、とても怖い...。