勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
長吉さんは私の頭を撫ぜながら消え入りそうな小さな声を漏らした。
「この子は紫衣は私の本当の娘ではありません。」
ギョッとして私は左近さんを見つめた。
「その話は紫衣も知っているのか?」
遠慮がちに話す左近さん。
長吉さんは左近さんに微笑みかけながら頷いた。
「紫衣は二年前の水害で家族を失った私の前に突然現れたのです。
ニッコリと微笑んで小さな手を私に差し出してくれた。
寂しくてどうしようもない私の心を救ってくれたんです。
神が私に使わせてくれたんだと信じてこれまで大切に育ててきました。
まだ3つだった紫衣はとても利発で私の心を和ませてくれました。
その後私もまた家族を持ち、今はここに妻と妻との間に出来た子供二人と一緒に住んでいます。
紫衣は私にとってかけがえのない家族です。
ですが妻にとっては厄介者、とても可哀想なことをしてしまったと紫衣がいなくなってから私はずっと後悔していたんです。
でも帰ってきてくれた。
私の元に紫衣は帰ってきてくれたんだよな?」
ギュッと私を抱きしめて話す長吉さん。
その時扉が乱暴に開け放たれた。
全員が部屋の中から扉に目を向けると男の子の手を引いて小さな女の子を背中に背負った女の人が立っていた。
「紫衣、帰ってたのか!!」
鬼のような形相の女の人は長吉さんに抱かれている私を憎々しげに見つめていた
。
怖いッッ!!
ズカズカと足音を立てながら近づいてくる女の人に私は体が震えだした。
そんな私を長吉さんはギュッと抱きしめて背中を擦ってくれる。
ゴツゴツとした大きな手が背中を往復するたび私の体の震えは収まっていった。