平安物語=短編集=【完】



「――…春雨や 我が目な覆ひそ
西方の ゆかしき方を 思ひやられば

(春雨よ、私の目の前を覆い隠さないで。極楽浄土があるという西の方が、自然と思いやられるので。)」


春雨が降る庭を眺めながらポツリと呟くと、乳母が聞き咎めて

「あな清き あまなればこそ 目の前の 自ずと隠るる こともあらなむ

(尼になるには余りに清らかに美しいあなただから、美しい雨に目の前を隠されているように思われるのでしょうよ。)

そんなことばかり仰って。」

と言いました。



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