平安物語=短編集=【完】
お屋敷に着きますと、お祖父様の右大臣様がお出迎えなさいました。
「宮~!」
と両手を広げてにこにこしていらっしゃいますので、宮様も小走りでお祖父様の御懐に飛び込まれます。
中に入りますと椿の上が穏やかに微笑んで座していらっしゃり、そのお隣にいらした若君が立ち上がって宮様と再会を果たされます。
「お祖父様、宮は良い子にしていますから、早くお母様をこちらに呼んでくださいな。
お母様がそう約束なさいました。」
と上目遣いでおねだりなさいますと、右大臣様はにこにこと宮様のおつむを撫でられて
「そうですね。
この爺も、お母上にお会いしたいものです。
椿の上もお会いしたいでしょうし、ね?」
とお答えになりました。
椿の上は、
「もちろんお目にかかりとうございますが、帝がそう簡単にはお離しになりませんでしょう。」
とお笑いになりました。
どこにいらしてもお幸せな宮様の御将来は、きっと明るいのだろうと頼りに思われます。
― 少納言の君 ―