罪線シンドローム
一歩……また一歩、私はその男の元に引き寄せられる。


小さくなる距離と、大きくなる胸の鼓動。


でも、その鼓動は激しくない。

優しく、強い。


そして、この夜闇を壊すことなく佇む男に、私は声を掛けた。


「あなた」


その後に続く言葉はないけど、彼は微かに反応を示した。


黒いパーカーのフードを深被りしたまま、私に背中を向けてはいるが、彼は恐らく、笑顔を浮かべているだろう。


根拠は……無い。


でも、感じる。泣いてる背中に反して、きっと彼は笑っていると。


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