花火
「貴美よ。今から行っていい?どうせ誕生日なのに一人だと思ったら、案の情一人の様ね」
予期せぬ来訪者に、一瞬たじろいだ。
「貴美?今更なんだよ。悪かったな、一人で。でも、お前に会う気はないよ」
酔った頭でも、それくらいの冷静な判断は下せた。すると自然に口調もとげとげしい物に変わっていた。
「でも、もう家の下なのよね。窓を開けて下を見て」
訝しげに窓を開け階下を見下ろすと、そこには確かに貴美が立っていた。
「ほら、誕生日プレゼントにビールとワインを持って来たのよ。それでも追い返す気?」
左手で携帯電話を耳にあて、右手でプレゼントだという荷物を掲げていた。
「わかったよ、鍵開けるから上がってこいよ」
溜息を付きながら、ふらつく体に鞭打って玄関に向かった。程なくして、コンクリートを打つヒールの音が聞こえてきた。その音が玄関の前で鳴り終わると、玄関の鍵を開けドアを開いた。
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