花火
病気の子供をあやす様に頭を一度撫でると、立ちあがり水を取って来てくれた。貴美はサイズの合わないTシャツを一枚着ているだけだった。股の少し下まで隠した裾の下からは、細い足が無防備に伸びていた。昔から二人でいる時は、格好なんて気にしなかったな。
「はい水。あっ、Tシャツ借りたわよ」
「サンキュ、見れば分かるよ」
ペットボトルに入った水を受け取り、一気に半分ほど飲みほした。
「その調子じゃ、どこかに出かける気力もなさそうね。何かビデオでも借りてくるわ」
そう言うと、着替えを持って風呂場の方に消えて行った。一ヵ月前は、春香から同じ提案をされたな、そんなことを思いだして苦笑した。
「何かリクエストはある?」
着替え終わった貴美が、首だけ覗かせて聞いてきた。
「特にないから任せるよ」
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