花火

「まだお酒が抜けきらないの？それとも私のことはとっくに忘れてた？」
若干機嫌を悪くしたのだろう、眉間に皺を寄せながら食いついてきた。
「嘘よ、ちょっとからかってみただけ。半年前のことだものね」
慌てる様子を一通り楽しんだのか、救いの手を差し伸べてくれた。だがその表情は、ただ冗談を言っただけではない様に見えた。
「駅までは送っていくよ」
着替えをすますと、短い駅までの道を歩いた。手を繋ぐでもなく、何かを話すでもなく、無言のままに歩いた。それでもアッと言う間に駅に辿り着いた。
「拓哉、私は今でもあなたを愛してるわよ」
そう言い残すと、改札を抜け、ホームへ続く階段に消えて行った。「あぁっ」情けない返事を虚空へ残し、その背中を見送った。