花火
「すいませんでした。急なことで驚いてしまって、申し訳ありません。もう少しだけ詳しい話を聞かせていただけませんか」
藁にもすがる思いだった。頭の中はグルグルと回り続けていた。コーヒーカップを思い切り回された後の様に、全てが歪んで見えた。   
誠意が伝わったのか、それともあまりに哀れに見えたのか、無論後者だろう、足を止めて答えてくれた。
「私が分かるのは、その子が引越したってことだけよ。それ以上でも、それ以下でもないわ」
顔には急いでいるの、そう書いてあった。
「いつ引っ越したかを、覚えてませんか?」
まだ焦点は合わなかった。
「八月の最後の土曜日よ。ご両親が、菓子折りを持って挨拶に来て下さったから、はっきり覚えてるわ」
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