花火
下界からの悲しみをはねのけていった。その心の壁が五層にも十層にも重なった頃、梅ヶ丘の駅に辿りついた。

いくら望んでも雨は降ってこなかった。一歩、また一歩家に近づくにつれ、心の壁は一枚一枚剥がれて行った。家の玄関を開けると、重い鉄の扉が開く音と共に、最後の壁が崩壊した。ベッドに力なく座り込むと、春香の思いが伝わってくるようだった。一体どれ程辛かっただろう、苦しかっただろう。その上で全てを受け入れ、悪女に徹しようとした。誰のためでもなく、成沢拓哉のために。自分なら耐えられただろうか?耐えられなかっただろう。発狂して、周りに当たり散らし、傷つけることしか出来なかっただろう。でも春香は違った。
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