花火
「知って何が出来るの!?知ってどうするの」
 やり場のない憎しみに染まった赤い瞳が、その悲痛な叫びが、頭の中で何度も繰り返し響いていた。
「何もできねぇよ。どうしていいかもわかんねぇよ」
 ひとりごちた。秋の澄んだ夜空に浮かぶ、無骨な月がカーテンの隙間から顔を覗かせていた。本当はどうすればいいのかも、どうしたいのかも分かっていた。ただそうすることが恐かった。そうする勇気がなかった。下唇を思い切り噛みしめると、口の中に微かな鉄の味が広がった。その生を主張する様な味が、やけに疎ましく思えた。
 翌朝目覚めると、区営の図書館に向かった。癌、取り分け膵臓癌に関する文献を掻き集めた。そこには、失望を絶望に変えることばかりが綴られていた。どの書物にも、希望という二文字は記載されていなかった。
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