恋心《短編集》
第1話 月の舟
あぁ、今日は半月か。


黒に近い濃紺の空に、半分だけの月が、その縁取りをボンヤリと滲ませながら、ゆらゆらと浮かんでいた。


ゆらゆら…。


ゆらゆら…。


月が揺れているわけじゃない。


私が揺れているんだ…。


目の前には、浩一の形の良い耳たぶがあった。


浩一は私を背負ったまま、街灯の乏しい暗い道を歩いていた。


「明日早いから」と言った浩一を、私が無理矢理近所の居酒屋に誘って。


お酒が強くないのに、いつになく無茶な飲み方をした私は…案の定、ぐだくだに酔って潰れた。


浩一は、そのしりぬぐいとして、酔っ払いの女を背負って歩いているのだ。





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