薔薇の欠片


だけど怯むことなく僕は紳士的に振舞った。



「大丈夫ですか?」



彼女は僕に見とれていたのか、申し訳なさそうに慌てて答えた。



「あ、ごめんなさい!」



僕はくすくすと笑って見せた。

もちろん、
僕が心から笑うことなんて無い。


こんなの演技だ。


本当に笑っているように、見せる。

クスクスと、
だけど嫌味たらしくないように。


そうしてまんまと彼女は僕に訊ねた。



「どうして笑っているんですか?」



僕は微笑んで見せた。

言うことはあらかじめ決まっていた。



「いや、可愛らしいなと思ったものですから」



そう言うと、彼女は顔を赤くして俯いた。



「からかわないでください……」


「本当のことですよ、憂さん」



僕が彼女の名前を呼ぶと、彼女ははっと顔を上げた。



「どうして、私の名前を?」

< 93 / 201 >

この作品をシェア

pagetop