薔薇の欠片
だけど怯むことなく僕は紳士的に振舞った。
「大丈夫ですか?」
彼女は僕に見とれていたのか、申し訳なさそうに慌てて答えた。
「あ、ごめんなさい!」
僕はくすくすと笑って見せた。
もちろん、
僕が心から笑うことなんて無い。
こんなの演技だ。
本当に笑っているように、見せる。
クスクスと、
だけど嫌味たらしくないように。
そうしてまんまと彼女は僕に訊ねた。
「どうして笑っているんですか?」
僕は微笑んで見せた。
言うことはあらかじめ決まっていた。
「いや、可愛らしいなと思ったものですから」
そう言うと、彼女は顔を赤くして俯いた。
「からかわないでください……」
「本当のことですよ、憂さん」
僕が彼女の名前を呼ぶと、彼女ははっと顔を上げた。
「どうして、私の名前を?」