着せ替え人形


ドキッ


…そんな音が外に漏れてないか心配になるほど、あたしの鼓動が高鳴った。


それでも極力冷静に。


「…ちなみに、誰の本なんですか?」


彼の口から出たのは、最近売れ出した若手の作家だった。


「こんな写真だから、官能小説にでも使われるのかと思いました…」


それを聞いたとたん、一ノ瀬さんは吹き出した。


「セクシーとやらしいは違うだろ?」


…まあ、たしかに。


「彼、俺の知り合いで…
大学の時の後輩なんだけどね。

俺の写真集の中の奈津子の写真見て、
『この女の子が今書いてる小説の女性のイメージにピッタリだから、ぜひ表紙に使いたい』って。
作品が仕上がる前から頼まれてたんだよ」


一ノ瀬さんを見ていても思うけど、
何ていうか…作品を作り上げていく上での信念とかプロ意識って、並大抵のものじゃないんだなぁ。


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