着せ替え人形


少し気分が落ち込んでいたとき、突然着信が入った。


驚いて相手も確かめずに通話ボタンを押すと、スピーカーから一ノ瀬さんの声。

「あの…昨日の写真ができたから、今から届けに行ってもいい?」


何もかもが突然すぎて、頭がうまく回らない。


「あ…申し訳ないんで、私から行きますよ」


必死で無難な言葉を探して平然を装うけど、鼓動が早くて胸が痛んだ。


「ん〜…それは困るな。
今もしかして家にいない?」


「いや、いますけど…」


「…もうマンションの前にいるんだよね」


…言ってる意味がわからないんだけど。


さっきからうるさい鼓動がさらに高鳴って、ふらふらしてしまう。


「そういうのはもっと早めに言ってくださいよ」


「ごめんごめん。
じゃあ今から向かうから」


そう一方的に言われると電話は切れた。


…どうしよう。


辛うじてメイクはしているけど、部屋は散らかってるし…きっと今、ひどい顔してるし。


怖くて鏡も見れない。


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