いわし雲のように【SS集】
 彼女という人間はそれはもう大変“おかまいなし”な性格でして。

 例えば、登校中に見つかろうものならば、

「遅刻しちゃいそうだから“のっけて”」

 といいながら、こちらの返事を待つそぶりなどこれっぱかりも見せる間もなくとすんっ、と自転車の荷台に座り。

 またあるときは、昼食中にやってきたかと思うと私の隣の席の人物がいようといまいと椅子を自らのお尻に引き寄せて、

「何か悩み事とかない? 今とっても誰かに相談をして欲しい気分なの!」

 などという、私の大切な昼食タイムに盛大な“まわしげり”を食らわせてまで親切心のバーゲンセールを真顔で行おうとしてみたり──その妙な気迫に結局、茶碗にこびりつくご飯のうまい取り方がないものかという実にどうでもいい相談をしてしまったわけだけれども──ともかく、そのような具合で、どうにもこうにも、問答無用で、ヒョウが降ろうがチーターに襲われようが彼女は大変に“おかまいなし”な人物だった。

 その最たる例を挙げるならば、私のこころにソレを勝手に植え込んで、根付かせて、芽吹かせたということだろう。

 そう、つまり──










──“恋心”というやつを。



< 2 / 52 >

この作品をシェア

pagetop