§Cherish§
§Cherish§ #8


突然の出来事に、我を忘れて、
身動きすら出来ない。
何が起こっているのかを把握
した時に、各務君が唇を離す。

「各務、君?」
『泣き止んだ?』
「…えっ?私……」

各務君の大きくて温かな手が
私の両頬を包み込み、冷たく
なった涙の跡を親指が辿る。

『そいつのことで、泣くな。
 いつか、見返してやれよ。
 俺が見守ってやるからさ。』

各務君は、穏やかに微笑むと、
私を抱き抱えて、
『ほら、帰るぞ。』
と、ゆっくりと歩き出した。

「私の部屋、そっちじゃ……」

各務君は、
『いいんだよ。』
と、アパートの一室に進む。
そして、器用に開錠しながら、
『飯、俺んちで食ってけよ。
 その足じゃ、何をするにも
 大変だろ。』
と、迷いもなく部屋に入ると、
ベッドの端に私を座らせる。

どうしたものかと思いながら、
キョロキョロと辺りを見ると、
各務君が、
『警戒しなくても、怪我人を
 襲ったりしないよ。』
と、苦笑いを浮かべている。
< 14 / 26 >

この作品をシェア

pagetop