放浪者の恋-single planet-

3

父は気性の荒い人間で、暴力や愛人や、トラブルづくめだった。

トラブルが多すぎて、はっきりいって細かくは覚えていない。

ただ、友人の父親で、刑務所にも入っていたというヒトが、《あの子の父親は、怖いひとだから、あんまり仲良くしちゃいけない》と言っていた、というのを聞いて、ショックを受けた覚えはある。

私が10歳のとき、父と母は離婚したが、それはある意味喜ぶべきことだった。

母は母親らしい、献身的な人格で、離婚後すぐに都会に住み、工務店で経理の仕事を始めた。
そこの社長の計らいで、車を借りては週末ごとに片道2時間かけて私たち子供に逢いにきた。

暴力的な父や、母のことを悪いと思って疑わない祖父母に、母と会っていることが絶対にばれてはいけない。

昼間に逢う時は人目を忍び、車のなかで身を縮め、夜に逢うときはベッドの布団のなかに洋服をつめて人のかたちにみせかけてベランダから脱出。

夜の田んぼのあぜ道を走り、母のところへと、駈けた。

私たちはそうして、母からの愛をなんとかつないでいられたから、それぞれの人格を保ち、いちおう大人になれた、と思っている。
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