放浪者の恋-single planet-

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祖父の死は、奔放なわたしの人生を、さらに解放した。

これからは、一緒に旅して生きようぜ、じいちゃん、という気分にさせた。

祖父が、結婚積み立て、みたいなことをしていたのも、
きょうだいのなかのだれよりも、私の花嫁姿を楽しみにしていたことも知っていた。
だけどついにわたしは、それを見せることが、できなかったのだ。

私の生まれたところは九州の山間の小さな町で、近所に住んでいるひとたちの苗字はほぼ同じ。

子供のころのことは、よく覚えていることと、覚えていないことがある。

芸事好きで浪費家な祖母につれられて、三歳から日本舞踊の教室に通っていた。

祖母の出ないおっぱいをかじり、泣きながら通っていたそうだから、我ながら情けないけれど、子供のころは、全体的に、かなり情けない性格だった。
いつもいじめられていたし、自分の言いたいことをいつも飲み込んでいるような子供だった。

パーキンソン病を患い、身体があまり自由でなかった祖母は、テレビショッピングや訪問販売で服や着物や肉を買い、買い物にはタクシーを使っていた。

家のなかにはどうやってつかうのかよくわからない健康器具や、一年に一度しか使わないパン焼き器や、シーズンごとに大量に捨てる洋服や和服がたくさんあり、冷蔵庫は腐りそうな肉や野菜がパンパンに詰まっていた。

病気の祖母のヒステリーもひどくて、時々、大声で泣かれたり、怒鳴られたりした。

機嫌の良いときは、菩薩のように優しく、悪いときは悪魔のようにむせび泣いて杖を振り回す。

それでも、いろんな意味で、私は祖母にとても影響を受けている。未だにその影はことあるごとに、わたしの嗜好や癖となって現れ、そして、わたしのなかにも、ときどき天使と悪魔を見いだすのだ。
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