雨夜の月
嵐がどんな子供だったとか、千里が諦めた中学の時の彼女の話とか、この夜で私は沢山の嵐を知った。


クールに装いながら、無邪気さで剥がれ落ちる素顔。

学校だけじゃ知り得なかった、嵐の根源。




また少し近づけた。

でも、まだ遠い。

きっと、ずっと遠い。




千里との待ち合わせ時間が、もう迫っていた。


「そろそろ行くか」

「うん」


再び掴んだ嵐の服は、思ってた以上に冷えていて、嵐の体温を感じることはなかった。


駅に着いて千里の姿を探したが、まだ着いていないようで、嵐は柵に腰掛けた。

「嵐、もう大丈夫だから、帰ってて」

「いや、千里が来るまではいるよ。変なヤツもいるからな」




一応、心配してくれてるんだ。

それだけが、特別に思えて嬉しい。


「彼女からは連絡ないの?」


ずっと気になってて、結局一番最後にしか聞けないことだった。


「え?あぁ…今日はお前らと遊ぶって言ってあるよ」

「そーなのッ!?」

「声デケーよ」



慌てて口を押さえて、誤魔化しの笑顔を振り撒いた。

「アイツは…何も言わねぇよ。メールすらしてこないからな」

「心…広いんだね」

「広いんじゃねーよ。臆病なんだよ」



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