雨夜の月
私たちのクラスは、何の競技も大して目立てず、先生の願う一位なんて無理だと、全員で諦めていた。
事前に配られたカラフルなポンポンも、振りかざされることなく無情に適当に放置されている。

「ね、水飲みに行かない?」

リレーまですぐだというのに、千里に誘われて席を立った。
時々湧き上がる歓声に、振り返っては足が止まる。

「あ、やっぱりいた」

千里の声に疑問を持たず、たった一人を探す。




いた。


嵐。


体育館の入り口で、友達と笑っている。



見つけるのは得意。

いや、特技か。


嵐の前を過ぎると水飲み場があり、そこで喉に潤いを与えると背後からデカい足音が近付いてきた。

『嵐だ』

足音でも分かるなんて、犬みたいだと笑えた。


「お前ら、気ぃ抜けてんなよ」

「もう終わったんだもん」

「しかも最下位」

悪戯な笑顔で、飲み終えたばかりの水飲み場に立つ嵐。
ポケットに手を入れたまま、斜めに角度をつけた顔は男なのに艶めいていた。

「ねえ嵐」

「ん…ちと待て」

「今日、彼女と過ごすの?」



嫌だ千里!!!!
私それ聞きたくない!!!!

「昨日会ったからな。今日は会わねーよ」

「じゃ、帰りに地元の駅で落ち合わない?」

「は?何で?」

「用事なきゃ会えないっての?」


千里は強い。心強い。

「んなこた言ってねーよ」

「じゃ、いいのね?」

「おう」


とりあえず取り付けた約束。
プレゼントを渡す舞台は決まった。


< 48 / 65 >

この作品をシェア

pagetop