only one
心臓を鷲掴みにされたように胸が痛い。
マツさんはデリーさんの婚約者。
彼と私にはなんの繋がりもないという言葉に私はショックを隠しきれなかった。
「そんな顔するな。」
私の両頬を優しく包んでくれるディアスさん。
泣いてはいけないと思うのに、涙はとめどなく溢れて頬を伝う。
「マツと遥夢に何があったのかは知らない。
だけど遥夢は俺の側で生きろ。
俺は遥夢を放さない。」
ディアスさんの綺麗な顔が苦しそうに歪められている。
私が彼にこんな顔をさせているのだと思うと胸の苦しさが増した。
「マツさんは?
マツさんは今―…。」
それなのに私の口から出るのはマツさんの名前。
マツさんに逢いたいと心が叫ぶのを止められない。
「アイツも今デリーと話をしている。」
「ディアスさん、マツさんに逢いたい。」
「お前は俺の婚約者なんだぞ。
他の男を求めるなんて許さない!」
「嫌っ!」
ベッドに仰向けに押し倒され、両手を頭の上で固定されてディアスさんが私の体の上に覆い被さってきた。
ディアスさんの片手で拘束される私の手。
もがいてもびくともしない強さにフツフツと恐怖が沸き上がってきた。
「お前は俺のものだろう?
遥夢、お前は俺の側で生きるんだ。」
強い意志の込められた瞳に見つめられて私の体はガタガタと震えだした。
「俺の側で人形のように生きろ。」
地を這うようなディアスさんの声。
人形――…。
――人形。
「嫌っ!」
固く目を閉じて暗闇に落ちていった。
人形のように生きる。
全てを諦めた私は人形。