only one
アルから離れた瞬間、床が抜けるように足元から水の中に吸い込まれるようにして湖の中に落ちていった。
バシャンと水音を聞いて、気がつけば私は水の中を漂っている。
不思議と息は苦しくはない。
ただ、音が全て遮断された無の世界。
だけど、やはり恐怖を感じることはなかった。
「私を受け入れなければこの水の中からは出られませんよ。」
静かな湖の中でアルの声を聞いた。
アルを受け入れるってどういうこと?
「私に心を許して下さい。」
私の疑問に応えるようにアルの声が耳の奥で直接響いた。
心を許すといっても、私はアルを知らない。
彼を受け入れるということがどういうことかもわからない。
「あなたの心のままに…。」
心のまま…――
正体のわからないアルも、今私に起きていることも不思議と怖いとは感じない。
私はアルを信用している。
何も知らないのにアルを信頼出来ると思う心。
その心のまま素直に彼を受け入れる事が今の私に必要な事?
ならば、私はその心のままに彼を受け入れよう。
「ありがとうございます。やはりあなた様は伝説の乙女に相応しいお方。」
耳の奥で響くアルの優しい声を聞いて私は再び意識が朦朧とした。
そして、
「遥夢様。」
アルの声に導かれるようにして覚醒する意識の中、瞳に映るのは草原でも湖でもなくアルの笑顔。
「ここは?」
私は湖の中を漂っていたはず。
「私の家ですよ。」
デリーさんに連れてこられた楽器屋さんに、
「戻ったの?」
「いいえ、戻ったのではありません。」