合鍵 ~あたしの不愉快な夏休み~
「んじゃ、な」


玄関で靴を履くあたしに。

片方の口角だけをちょっぴり上げる、かすかな笑みを浮かべて軽く手を挙げる塔也。


ずいぶんあっさりしてる。


(何だかさびしいな)


この重いドアをくぐることも、もうないんだなと思うと何だか無性にさびしい。



あたしは最後に振り向いて、塔也を見上げた。

何か言わなきゃ、っていう焦燥感にとらわれて、あたしは思わず言った。


「……あたし、役に立ったのかな?」

「……」


あたしが聞くと、塔也はニッと笑って、無言でうなずいた。




重いドアを手で支えてそっと閉める。


(せっかくだいぶ打ち解けたのにな)


何を期待してたのかわかんないけど。

でも、最後に何か起こるんじゃないかって、どこかで思ってたあたしがいた。

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