闇夜の数だけエゴはある
俺と梓を部屋に置いて、艶は儚を当主の間とやらへ案内する。

「気づいてる?武羅人」

姿勢のいい正座のまま、梓が視線すら向けずに囁く。

「ああ」

無造作に頭を掻きながら俺は返事した。

障子の向こう、襖の向こう、畳の下、天井裏。

四方八方から視線と気配を感じる。

監視というには露骨過ぎる。

「『監視』じゃなくて『環視』だな」

我ながら上手い事言ったと思うが、梓はクスリとも笑わなかった。

可愛げのない女だ。

まぁ笑ってる場合でもないか。

どうあってもこの部屋から出す気はないらしい。

分断したいのが見え見えだ。

だが。

「当面は心配要らないと思うけど」

梓は小さく溜息をついた。

「儚様一人を寄ってたかって嬲り者にする…野須平しとねは、そこまで器の小さい女じゃないわ」



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