たとえばそんな静寂の中で
瞳の色が左右で違うのは正確には虹彩異色症という。

医学用語でHeterochromia of Iris。

俗称ではオッド・アイとか金銀妖瞳ともいう。

あたしは早い段階からこっそりと文献を読み漁った。

遺伝的な性質や病気、もっともらしいことを言っても原因ははっきりとはわからない。

ネコやイヌでは遺伝は多少関係あるものの人間では遺伝とは言い切れない。

ヘテロクロミアの個体は難聴を伴ったり、髪の毛の一部が白くなったりさまざまな障害を伴うことも多いらしい。


しかし、おねえちゃんはどこから見ても完全体でどこにも障害はなかったし、体中のすべてのパーツが選び抜かれて完成されていた。


らちもないことだけど、おねえちゃんは母胎で分裂を繰り返して作られた胎児ではなくて、誰かがおねえちゃんという無機物を作り、最後にもっとも重要な部分、すなわち右の瞳に金色の琥珀を埋め込んだら、そのあまりの美しさに命を与えられて動き出したんじゃないだろうか。

画竜点睛という言葉が中国の故事―壁に書いた竜の最後の仕上げに瞳を入れたらそのあまりの出来に竜は本物となりたちまちのうちに天に昇ったというーに由来しているというのだから、現代の日本で同じことあっても不思議ではない気がした。


あたしがおねえちゃんの瞳を手に入れるためには事故にでもあって、片方の瞳孔が開きっぱなしにでもなるしかない。

もっともそんな危ない橋を渡って都合よく物事が進むはずもない。

結局、膨大な医学書を読み漁ってたどり着いた結論がそれだった。
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