マジックストーン
唯一の取り柄だと思っていたピアノも満足に弾けない今、私には何も残ってないっていうのに。
上手でもないピアノを好きって言ってくれたり、もう一度聞きたいって言ってくれる神崎先輩って一体――
「優衣のことが好きだからに決まってるじゃない。他に何があるって言うのよ」
当たり前じゃない、と付け足した梨海ちゃんにぎょっとした私はじっと梨海ちゃんを見つめた。
梨海ちゃんは左手でいとも簡単に髪の毛を下ろし、私を見てにこり。
「今日のことで神崎先輩は優衣に本気なんだって分かったわ」
だから、と言葉を続ける梨海ちゃんは私の頭を撫でる。
「――好きになってもいいと思うわ」
「………へ? すき?」
「そう。簡単に言えば神崎先輩と付き合っちゃえってこと」
「むっ……無理無理無理無理っ!!!!」
両手を目の前でばさばさとしながら梨海ちゃんを見れば、ふっと笑っていて。
「今はまだ無理って思うかもしれないけど」と首を右に傾げれば茶色の髪の毛がさらさらと重力に従った。
「もし、優衣が神崎先輩を好きになる時が来たら。ちゃんと“神崎祥也”を見て好きになりなさいね」