マジックストーン

「どうして……?」

 泣きたくなるくらいメイド服なんて着たくないのに……。それに、チヒロちゃんなら神崎先輩の言ってたことだって知らないし。外してもらえれば、神崎先輩に『小道具担当でした』って言えたのに……。

「ごめんねー。だって、しょうがないじゃん」

「え?なにが?」

「せっかく、英明一カッコいい神崎先輩に『俺の可愛い可愛い彼女の優衣ちゃんに絶対絶対メイド服着させてね?もし着させてくれたら一回だけ抱きしめてあげるから』なーんて言われちゃったらもうっ」

 握った手のひらを胸の前にやって斜め上を片足上げながらうっとり見上げるって……チヒロちゃん。

 「ホント、羨ましすぎるっ!あんなカッコいい彼氏がいてっ」とバシバシ肩を叩かれる私は必死にそれを否定しながら自分の席に戻った。

 神崎先輩め……私が断るのを見透かしてたなんて……もう、やだあ。

 小さく息を吐いた私は、それに、と思う。

 私だけじゃなくて、他の女の子にだってああいう風に言ってるんだ……神崎先輩って。

 やっぱり、私じゃなくてもいいのかな。女の子なら誰でもいいのかな……?



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