マジックストーン

 私は、何かの魔法にかけられたみたいに、神崎先輩の背中に回した手を離せないでいた。

 鼻腔をくすぐるちょっとした甘い香りも。

 なんだか安心できる気がする。

「あー。優衣ちゃんってさ、ホントは魔性の女だったりするのかなぁ」

 上から声が降ってきて、頭を後ろに傾け、下から神崎先輩を見上げる。

「魔性の女……?」

「はぁあ。俺だけドツボにハマってるみたい。
好きで好きでしょうがないのに、どうしても振り返ってもらえない。
……ねぇ、どうして?」

「どうしてって言われても……」

 今度は頭を前に倒す私は、どう答えていいか分からなくて、口籠もってしまう。

「ごめんね。困るって分かってたのにね」

 困惑する私を、さらに困惑した声音の神崎先輩は、ポンポンと私の頭を撫でる。

 神崎先輩は、ゆっくりと私から離れて口元に優しい笑顔を浮かべた。

「……約束通り、帰るね」

「今日はありがとうございました。嬉しかったです」

「じゃ、バイバイ。……これだけは許して?」

 いたずらっ子のような笑みを浮かべた神崎先輩は、私の額にキスを落とした。

 私は、顎を引きながら後ろに下がる。

 どうしても、キスに慣れないの。

「………さようならっ」

 気まずい雰囲気になってしまったのは、私の所為だって分かってるけど、逃げるように別れを告げ家に逃げ込んだ。


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