マジックストーン
「そこはさぁ、優衣ちゃんが『帰っちゃイヤ』って言って、背伸びしてチュウする場面でしょっ」
だからっ!
神崎先輩、ドラマの見すぎですからぁっ。
「ぜーったいしませんからっ!!」
「あははっ。じゃあ、さ。ぎゅうってして?」
「なんで私がっ……」
「お願い。そしたら、帰るから」
ことさら甘い笑みを浮かべる神崎先輩は、手を広げて今か今かと待っている。
恐る恐る神崎先輩に近づく私。
神崎先輩は相変わらず、砂糖を煮詰めたような甘い笑みを浮かべている。
手を伸ばせば抱きしめることの出来るキョリで、私は固まってしまった。
「優衣ちゃん?」
「どうしても抱きしめなくちゃ、ダメですか?」
「うん、ダメ」
意を決して手を伸ばし、神崎先輩の背中に手を回した。
ほんの一瞬だけ、腕に力を入れてぎゅっとした後、すぐ離れようとしたのに。
離すもんか、と言わんばかりにことさら強く抱きしめられた。
「なっ?!かかか神崎先輩っ」
「思わず体が反射しちゃって……」
「……離し、て?」
「ごめん。離したくないや」
トクントクンと私の鼓動はさらに速くなっていく。