からくり姫と戦士  ブレイクムーンワールド01
乱世
王室に生まれてきたものの不幸を ビーグ は幾世代にわたって見守ってきた。
そこに生まれたものの
真の世を動かす力

何より運の強さ
それらが赤裸々に反映される世界なのだ



この世界では

人の命の重さなど
いともたやすく軽々と扱われる

それを逃れる術は、例え王族の世継ぎであったとしても
免れることは出来ない。

その不条理を ビーグ は
一見 血の通わない銅板金のマスクの下からずっと見てきた

からくり人形のビーグには
むしろ近い場所に居るこの世界の幾世代もの孤独な王位継承者という名目の
流刑者たちにはとても暖かい庇護者に見えていたのだ。

「ねえ…遊ぼう ねえ…遊ぼう ビーグ」

視力を持たない姫君は

元気盛りのその歳の退屈極まりない毎日を王宮の広大な中庭で過ごしていた。

「ねえ ビーグ ったら」

視力を持たぬ 姫君は
中庭に咲く リージェンドツリーの紫の花の美しさは理解できなかったが
その実のかぐわしき香りは一年に一度この季節の楽しみだった。

陽光は暖かく 春先の庭で芝生の上で戯れる
その幼くとも 時間がたてばさぞ美しい娘として生長するであろう兆候を湛えた
御転婆さんに ビーグは両腕を差し伸べた。

「ビーグ ひゃっ つめたぁい」

銅板金のビーグのそのボディは
姫君には感触としてしか伝わらない
不憫な仔よ…… ビーグにとって本来不得意な感情がビーグの電子回路に走る

姫君の正式名はハッシュアン皇女

姫君がまだ一歳の時、王位継承権をわが子に持たせようとした
国王の第二夫人の放った毒によって
かろうじて命は取り留めたが重い障害を残した

当時 国王も正室との仲が優れず
第二夫人の意図を知りつつ黙認したとかいう噂も流れていた。
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