准教授 高野先生のこと

私と夏川……秋ちゃんは入学後すぐに仲良くなった。

学年に女子は二人だけだったし。

互いに気が合って楽しくて、他大学から一人で入った私には本当に心強かった。


4月の下旬、私は妊娠のことを打ち明けられた。


「12月には生まれるんだよ」

秋ちゃんは静かにそう言った。

「そんな……大学は?だって入学したばっかなのに?」

今思えば、もっと他に言うべき言葉があったと思う。

だけど――

咄嗟に口をついて出た台詞はそんなだった。

“おめでとう”だなんてとてもじゃないけど思えなくて。


「相手の人には?言ったの?」

「うん……結婚しようだって」

秋ちゃんは、ぼんやりと他人事のように言った。

相手の男性が、昨年度まで助教をしていた夏川先生ということ。

遠距離恋愛をする自信がもてなかったこと。

自分の進学を諦められなかったこと。

彼に付いて北海道へは行けないと思ったこと。

だから――

一旦は彼と別れてしまったこと。

私はこのとき、すべてを彼女から聞いたのだった。





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