准教授 高野先生のこと

「いい時間ですね。そろそろ我々も帰りましょう」

「はい」

先生と私はそれぞれに帰り仕度を始めた。

「送らせてくださいね」

「ええっ!!」

あまりの思いがけない申し出に私はひどく驚いてしまい――

「そ、そんなに驚かなくても……」

逆に先生まで驚かせてしまった。

「すみませんっっ」

「いえいえ、謝ることでは」

「でも、バスもありますし」

「何言ってるんですか。こんな時間ですよ?」

この時間になると、バスの数はさすがに極端に少なかった。

「大丈夫。運転は普通のつもりです」

もちろん、私はそんなこと心配しているわけじゃなかった。

けど――

先生のそんなトンチンカンなところに、私はさらに心を鷲掴みされてしまった。






< 21 / 462 >

この作品をシェア

pagetop