准教授 高野先生のこと
先生は私のうちのすぐそばのコンビニまで送ってくれた。
「今日は本当に助かりました。ありがとうございます」
「こちらこそ……返ってなんだかすみませんでした」
ご馳走になったうえにお礼まで言われて、すっかり恐縮してしまう。
「そうそう、これを忘れてはいけません」
先生はシートベルトをはずし、後部座席の鞄に手を伸ばした。
「今日鈴木さんはこの為に来たのですから」
鞄から1冊の本を取り出して先生は私に差し出した。
「あ……有難うございます」
本当言うと――
本のことなんて、私はすっかりころっと忘れていたのだけど。
「いつでもいいですから」
「すみません」
「返すときは、研究室へ送っていただいてけっこうですよ」
「えっ」
とても、淋しかった……。