准教授 高野先生のこと

先生は私のうちのすぐそばのコンビニまで送ってくれた。

「今日は本当に助かりました。ありがとうございます」

「こちらこそ……返ってなんだかすみませんでした」

ご馳走になったうえにお礼まで言われて、すっかり恐縮してしまう。


「そうそう、これを忘れてはいけません」

先生はシートベルトをはずし、後部座席の鞄に手を伸ばした。

「今日鈴木さんはこの為に来たのですから」

鞄から1冊の本を取り出して先生は私に差し出した。


「あ……有難うございます」

本当言うと――

本のことなんて、私はすっかりころっと忘れていたのだけど。

「いつでもいいですから」

「すみません」

「返すときは、研究室へ送っていただいてけっこうですよ」

「えっ」

とても、淋しかった……。




< 32 / 462 >

この作品をシェア

pagetop