准教授 高野先生のこと
ちょこちょこだけどケータイをいじるようになってから――
“あぁ、私って恋してるなぁ”と思う瞬間が多々あった。
それは――
高野先生からのメールを知らせる着信音が鳴るとき。
何を隠そう特別に着信音を設定しているのは高野先生だけ。
そうはいっても――
ケータイって普段は振動だけで音は切ってしまっているから。
そのメロディを聞くのは主に家で一人のときだけなのだけど。
先生からのメールは、ラヴェルのピアノ曲が知らせてくれる。
“亡き王女のためのパヴァーヌ”
初めて先生の車に乗せてもらったときにかかっていた曲だ。
どうしてもこの曲にしたくって、わざわざ探して落としてきたのである。
とてもリアルな精密なピアノの音色も驚きだったけど、それよりも――
着メロ探しに没頭している自分が、とても意外で驚きだった。