Cold Phantom [前編]
「私はいつも誰かに守られながらこれまで生きてきてた。病院の先生やみーちゃん、ヒロ君の明るさにもいつも助けられてた。だからいつか、恩返ししたいと強く願ってた。ヒロ君も記憶喪失なら、思い出せるように…」
と、先輩がそこまで言った時、俺は手を出してそれを制した。
「先輩…でも、今はもう過去にはこだわって無いッスよ。」
「でも、気にならないとは言えないんじゃない?」
「それは、そうッスけど…それよりも今は先輩と一緒にいたい。ただ、それだけッス。」
「ヒロ君…」
「見えない過去に縛られるより、俺は今をしっかり生きていきたい。だから、俺の願いは先輩も今をしっかり生きて、俺の好きな先輩でいて欲しい。それだけッスよ。」
俺の言葉に先輩はキョトンとした表情を見せたが、しばらくして先輩は重く口を開いた。
「ごめん、今の私にそれは出来そうに無いかな…何か、大切な物を私は過去に置き忘れた様な気がしてて…」
「先輩、それは俺だって感じている事ッスよ。でも…」
「でも?」
「それは過去だからこそ大切だったんだって俺は思うッスよ。」
< 312 / 321 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop