60代の少女
「・・・じゃあね」
「・・・ああ」
短い、別れの挨拶。
このまま別れたら、彼女と自分の接点は、無くなってしまうのだろうか。
まるで糸のような、はさみ1つで離れてしまうような、まだ二度目の面識を。
「―――なあ!」
見送る背に、名残惜しさを感じ、元博は瞬間的に声を張り上げていた。
いちが目を瞬きながら振り返る。
「師匠は、来る人間は拒まない人だから。その―――良かったら、また顔出してくれよ」
「きっと師匠も喜ぶ」と、最後に付け加えたのが、言い訳に聞こえていないことを祈る自分が、不思議だった。
いちは、笑って頷いた。
その表情に元博も笑顔を返し、来た道を遡って、家路に着いた。
これほど暖かい気持ちで笑えたのは、久しぶりのような気がした。
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