60代の少女

翌日、実習を終えて学食に向かおうとしていた元博の目に留まったのは、こちらに向かって手を振っているいちの姿だった。
辺りを一度見回して、その手が自分に向かって振られているのだと気付いた元博は、戸惑いながら彼女の元へ向かった。ほぼ同時に、いちも元博の元へ駆け寄ってくる。
「よかった、入れ違いにならなくて」
「・・・どうかしたのか?」
「うんと・・・はい、これ」
そう言っていちが差し出したのは、古風な風呂敷の包み。
赤い布に、和風の模様が描かれた、両手に乗るくらいの大きさのものだった。
「・・・なに?」
「お弁当。昨日のお礼」
全く悪びれなしに、いちは言う。
元博は包みを見つめた。
「・・・別に、礼なんて良かったのに」
「そういうわけにはいきません」
眉の端を少しつり上げるいちの仕草が可愛らしくて、元博は僅かに口の端を緩めた。
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