60代の少女

時間の壁

四五六の個展は、最後の最後まで大盛況だった。
代わりに、裏方である弟子達の苦労は腐るほどあったが、まずは無事にこの展示会が済んだことを喜ぶべきだろう。
とりあえず「適当にどこかにぶち込んだ」だけの搬出作業も終わり、弟子達は各々四五六に挨拶をして、自宅へと帰っていった。
―――が、それが出来ぬは我が身のみ、の元博は、なぜか1週間分の荷物を詰め込んだバッグを持って、四五六のアトリエにいるのだった。
「…そんな仏頂面してんじゃねぇよ…って、いつもとあんま変わんねぇか」
「…仏頂面にもなりますよ」
元博は呟くようにごちた。
普通に小旅行だと思えば、純粋に楽しめるかもしれないが、この師に誘われたとなると、手放しに喜べない。
「ははは…。まぁ諦めろ、元博」
陽気な一二三の笑い声も、今は少々癇に障る。
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