60代の少女
「元博・・・大丈夫?最近、元気ないけど」
並んで作品の整理をしていたいちが、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫」と、一言答えたが、そこに不安の色が混じっていなかったか、心配だった。
「―――そう・・・」
どうやら不安の色は、しっかり混じっていたらしい。
明らかに大丈夫ではない、と主張するようなそっけのない返事に、落胆した声のいちが呟いた。
それきりどうしていいいのかわからず、沈黙を空気に閉じ込めたまま、元博は作業に没頭した。
ほぼ無心と言っていい背中を、いちの声が押す。
「・・・私・・・何かした・・・?」
いちの手が止まっているのが判る。
しかし顔を見たら、自分が何を言い出すのか判らなくて、振り返れなかった。
「・・・いちのせいじゃない」
そう言うのが精一杯で。
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