ギア・ドール
「そういう海人のほうこそ、相変わらずなの?」
海人が、おぼろげにそんなコトを考えていると、今度は、菫の方から質問をしてきた。
「何が?」
「・・・記憶だよ。少しは、何か思い出した?」
それこそ、おせっかいだ。
「そんなにすぐに思い出せたら、苦労はせんやろう?」
「そりゃ、そうだ。」
クスクスと含み笑いをあげる菫。
その途端、皐月の索敵機能が反応してブザーを鳴らし、新たな反応が間近に迫っているコトを知らせる。
海人が画面に目を配ると、そこには青いランプに『JIN’S GIA』という表示が見て取れた。
「ジン爺さんの機体があるで。」
通信機越しに声を出して、菫にもその存在を教える。
情報屋のジン爺さん。
スラムの西北部に住居を構える、40歳過ぎ(推定)の白髪の老人である。
「え?あ、ホントだ。」
本当に、気が付かなかったらしく、驚いた声を上げる菫。
索敵画面に出ているジン爺さんの機体は、すでに、500メートル先にいる。
今は低速だったからそんなことはないが、これが少しでも高速だったら、間違いなくぶつかっている距離だ。
相変わらず、無意味にギア・ドールにステルス加工なんてしやがって・・・。
「ジン爺さん!」
通信機のスイッチを、個人回線から外部スピーカーにつないで、大声を上げる。
決して、彼の耳が遠いわけではないが、とりあえず怒鳴りたかった。