5年先のラブストーリー-この世のしるし-
近藤は全スタッフを注目させた。
「今、パリ本社から来春の世界ジュエリーデザイナーコンクールを日本で開催するとの知らせが入った。優秀な者はパリで勤務させ、自身のオリジナルブランドを発表させるとの事だ」
近藤はあえて直樹に訴えかけるように言った。
そこには、その視線を見逃さず、野心を剥き出す男・寺田(28)と言う者がいた。
寺田はデザイナーとしてのセンスはもちろん、誰も真似の出来ない特殊な技術を持ち合わせ、その実力は日本支社でも群を抜いていた。
コンクールでは自分を差し置いて優勝出来る者などどこにもいないと既に勝利の雄叫びを上げるかのようだった。
しかし、そんな寺田にもたった一つの不安な要素があった。
それは工藤直樹の存在。
デザイナーとしての資質もないのに近藤に可愛がられ、さっきの視線と言い、また依怙贔屓するのではないかと勘繰るようになった。
それ以来、デザイン室には異様な空気がたち込めるようになった。
しかし、直樹はそれに抵抗するでもなく、たった一つのデザインに固執し試行錯誤する日々を送っていた。
そんな姿を近藤は、ただ直樹を信じ黙って見守っていた。
そんな二人に腹を立てた寺田は遂に直樹へ行動を打って出た。