契約の恋愛
「私の事…知ってるんですか…?」

そうだ。そもそもこの男は私の名前を知っている。

それは何故か。分かるはずがないよ。

だって璃雨は、この男をしらないんだもの。

「知っていますよ。あなたの事は、何でも。」

「……ストーカー…ですか?」

それはそれで気持ち悪い。
男は静かに首を横に振った。

「あなたの知らない事なんて、たくさんありますよ。」
…意味不明。
どうしよう。もうそろそろ戻らないと雪葉にきづかれてしまう。

「…あの。」

「契約の話ですが。」
上手いこと話をそらされてしまった。
ぶーっと不機嫌になる。
そんな私はお構い無しに男は言葉を続ける。

「契約の内容ですが。」

「…はい。」

私は何も買わないよ。何も……。
地面を穴があく程見つめる。私は顔も視線も合わせず、ただ静かに男の話を聞いていた。

「あなたは私のもの。私はあなたのもの。お互いの為に生きる恋人を、契約で結びたいんです。」

……は。
いきなり出てきた、すっとんきょうな話に思わず顔を上げた。

あなたは私のもの。私はあなたのもの…?

視線の先に写る、彼の表情は完璧な微笑。

ゆっくり男の長い腕が上がってきて、私の冷えたほうを男の細い指が包み込んだ。

「契約、しましょう。」
これが、紀琉との出会いだった。
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